先日、「この世界の片隅に」という映画を観ました。
この映画は、戦時中の呉を舞台とした、同名のマンガを原作とするアニメーション映画であり、昨年の公開当初は上映館も少なかったのですが、口コミで人気が広がり、ロングランヒットとなっています。
この映画は、クラウドファンディングという、わかりやすく言うとインターネット上で賛同者から寄付を集めて製作資金とする新しい手法により、製作されており、その点でも、極めて異例なヒットでした。
まだ上映中なこともあり、詳しい内容に触れるのは控えようと思いますが、太平洋戦争という難しい話題を扱う映画でありながら、明るい性格の主人公(浦野すず)の日常の描写を中心に、笑い話を交えながらストーリーが進み大変おもしろい作品でした。
他方で、一見明るく日常生活が行われているなかで、徐々に戦争の惨禍が迫ってくる描写があちこちに挟まれており、やがてそのことに気づかされてハッという気持ちになるという、中々怖い作品でもありました。
おもしろくもためになる作品なので、ブログ読者の皆様もぜひ一度ご覧になってください。
さて、弁護士として少し気になったのは「録事」という仕事です。
この映画の主人公の結婚相手(北條周作)は海軍の「録事」を勤めていることが、作中で何回か台詞で出てきます。最初は「ロクジ」と聞いても良く分からなかったので、視聴後に少し調べました。
この「録事」という仕事は、軍法会議(軍事を扱う特別裁判所)における訴訟書類の調整を任務とする仕事で、現代の裁判所における書記官に相当する仕事のようです。
書記官は、裁判の記録を作成・管理することを職務としている裁判所の職員の方であり、ニュースとかで法定が映るときに、黒服を着て裁判官の前の段に座っている方がそれにあたります。(日頃、色々お世話になっております。)
戦争映画に出てくる職業としてはかなりシブイところをついてきたなと思います。(インタビューによると原作者のこうの史代さんの親族が実際に呉の軍法会議所にお勤めだったそうです。)
作中では軍法会議の様子は全くできませんでしたが、細かい点まで考証にこだわった映画であったこともあり、軍法会議の様子が描写されたらきっと興味深かったと思います。
スピンオフで録事の仕事をしている映画を作ってくたら是非見てみたいなと私は思っていますが、マニアック過ぎてクラウドファンディングでも資金は集まらないですかね(笑)
(参考までに以下に海軍軍法会議法と新旧裁判所法の条文を抜粋して掲載しておきます)
海軍軍法会議法(大正十年四月二十五日法律第九十一号)
第四節 書類
第百六条 訴訟ニ関スル書類ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外録事之ヲ調整スヘシ
第百七条 裁判官、予審官ハ又検察官ハ録事ノ作リタル書類ニ付意見アルトキハ録事ニ命ジ之ヲ変更セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ録事ハ自己ノ意見ヲ書類ニ付記スルコトヲ得
(http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2954733/34)
裁判所構成法(明治二十三年法律第六号)
第九十一条 書記ハ其ノ上官ノ命令ニ従フ
2 裁判所ノ開廷ニ於テハ裁判長ノ命令ニ従ヒ又判事一人ナルトキハ其ノ判事ノ命令ニ従フ
3 書記ハ検事局ニ勤務スルトキ又ハ特別ノ事務ニ付判事若ハ検事ニ附属シタルトキモ亦其ノ検事局又ハ判事若ハ検事ノ命令ニ従フ
4 前二項ノ命令ニシテ口述ノ書取ニ関ルカ又ハ書類記録ノ調製若ハ変更ニ関ル場合ニ於テ其ノ調製若ハ変更ヲ正当ナラスト認ムルトキ書記ハ自己ノ意見ヲ記シテ之ニ添フルコトヲ得
5 前四項ニ掲ケタルモノヲ除ク外書記ノ職務及其ノ事務取扱方法ハ書記ニ関ル規則中ニ司法大臣之ヲ定ム
(http://www.geocities.jp/nakanolib/hou/hm23-6.htm)
裁判所法(昭和二十二年四月十六日法律第五十九号)
第六十条 (裁判所書記官) 各裁判所に裁判所書記官を置く。
○2 裁判所書記官は、裁判所の事件に関する記録その他の書類の作成及び保管その他他の法律において定める事務を掌る。
○3 裁判所書記官は、前項の事務を掌る外、裁判所の事件に関し、裁判官の命を受けて、裁判官の行なう法令及び判例の調査その他必要な事項の調査を補助する。
○4 裁判所書記官は、その職務を行うについては、裁判官の命令に従う。
○5 裁判所書記官は、口述の書取その他書類の作成又は変更に関して裁判官の命令を受けた場合において、その作成又は変更を正当でないと認めるときは、自己の意見を書き添えることができる。
(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO059.html)