末廣嚴太郎(1888年~1951年)という高名な法学者がいました。
その末廣博士が雑誌「改造」の大正11年7月号に掲載したのが、この「嘘の効用」という題名の論考です。当時は一般の方にもよく読まれたそうです。
1922年の話ですから、96年前の話になります。
なお、どうでもいい情報ですが、今も元気に暮らしている祖母が3歳のころの話です。
本読んだら眠れるかな~と思ってなんとなく手にとって読み始めたら、面白さに最後まで読んで、結局寝不足になってしまったという私にとって印象深い1冊です。
96年前の論考だから、古い考えだ、古典だと思ったら大間違い。
現代にも通用する、むしろ、大正のころから今が見えていたのではないかと思えるような鋭い指摘がなされています。
最近、日本評論社から新装版が出たので、ぜひ手にとって読んでいただきたい一冊です(※日本評論社からは1円ももらっていません。)。
たとえば、こんなくだりがあります。
『法律家は「法律」の範囲内にとどまるかぎりにおいてのみ「専門家」です。ひとたびその範囲を超えるとただちに「素人」になるのです。むろん「専門家」だからといって絶対に「素人考え」を述べてはならぬという法はないでしょう。けれども、その際述べられた「素人考え」は特に「専門」のない普通の「素人」の意見となんら択ぶところはない。否「専門」という色眼鏡を通して、物事を見がちであるだけ、その意見はとかく一方に偏しやすい。したがって普通の「素人」の意見よりかえって実質は悪いかもしれないくらいのものです。しかも世の中の人々は、ふしぎにも「専門家」の「素人考え」に向かって不当な敬意を表します。』(末廣嚴太朗「嘘の効用(新装版)」(日本評論社)6~7頁)
色々思うところがあります。
こんな調子で論じられているので、もちろん途中難解な部分はありますが、そういうところは読み飛ばしていただければ、あっという間に読み終わります。
何か本を読みたいと思われたときの選択肢の一つにしていただければと思います。