このたび大阪弁護士会の若手ブロガーの一員となりました葉野彩子と申します。
今回は記念すべき1回目の投稿ですので、
何を書こうか随分と迷ったのですが、
まぁ最初くらいはまじめに書いてもバチは当たらないだろう・・・ということで、
先日経験した簡易裁判所での証人尋問について、
地方裁判所と異なる点をいくつか書かせていただこうと思います。
1.司法委員の発問
簡易裁判所では、裁判官の左右に1人ずつ司法委員がおり、裁判官が許した場合に限って尋問されている当事者・証人に対して直接質問を発することができます(民事訴訟法規則172条)
地裁でも簡裁でも
①主尋問
②反対尋問
③再主尋問
+随時の補充尋問
・・・という順序は同じなのですが、
①と②がメインで③や補充尋問が大幅に長引くことはあまりありません(もちろん事案にもよりますが)。
しかし、簡易裁判所では司法委員の質問が必要以上に長引くことがあるように思います。
また、司法委員になるために特別な資格は必要なく、司法委員は必ずしも法律のプロではありませんので、争点に関係のない質問や重複する質問がなされることもあります。
勿論、すべての司法委員がそのような質問をするとは限りませんし、司法委員の趣旨が、一般市民の良識を紛争解決に役立てよう、ということなのでそれが悪いこととも限らないのですが、
地裁の裁判官が行う質問とは随分違うな、というのが私の印象です。
そもそも司法委員の方は、いつどこでどの程度記録を読んでおられるのでしょうか・・・(゜_。)??
素朴な疑問です。
明確な対策方法があるわけではありませんが、
・ある程度時間の余裕を見る
・誤導、重複質問に留意し、必要であれば異議を述べる
ことに注意を払うことが必要かと思います。
2.調書の記載への省略
簡易裁判所では、当事者・証人の尋問を行った場合、裁判官が許可をすると当事者・証人の陳述の結果の記載が調書の記載から省略されてしまいます(民事訴訟規則170条1項)。
地裁で尋問を行った場合はこのような省略はできませんので、
尋問の内容が必ず調書、すなわち訴訟記録の一部として残ることになります。
(民事訴訟規則68条1項により録音テープを調書に代える場合はもちろんあります。)
つまり、この場合には、上訴されたときは
「第1審でこういう尋問がされましたよ。」
というのが訴訟記録の形で残って上訴審に上がっていくわけです。
しかし、簡裁でこのような省略がされてしまうと、訴訟記録という形では残りません。
この場合
①上訴審で再度証人尋問をする
or
②簡裁の録音テープを複製してもらって反訳をし、新たに証拠として提出する
ということが考えられますがどちらもかなり手間がかかってしまいます。
条文上は裁判官が省略を許可するときに「意見を述べることができる」(民事訴訟規則170条1項)のですが、
電話で書記官の方に尋ねたところ、簡裁の運用上省略しないことはほとんどない、ということでした・・・。
なので、事実上省略を阻止するのは困難だと思われます。
なお、録音テープの複製をしてもらうには
①複製申請書
②空のCD-RW
③返信用封筒
をセットにして簡易裁判所に提出することが必要です。
複製申請書は書記官か事務官の方に言えばくださいます。
こちらも調書に記載してもらうために有効な手段があるわけではないのですが、
・事前に書記官さんに電話でお願いをしてみる
・条文通り意見を述べてみる
調書に残らないことを前提として
・尋問以外の立証により力を入れる
ことが考えられるかと思います。
訴訟記録として残らない、ということは、逆に言うと、規170条1項で調書への記載を省略されてしまった場合、
その反訳の提出などの事情がないのに、尋問の内容を上訴審で判決の基礎にしてしまうと、
それは手続違反になりますので、(東京高裁H24.7.25判時2165-84参照)
代理人としては、調書への記載が省略されたはずの不利な尋問結果が判決理由の中で引用されていた場合、
「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反」(民事訴訟法312条3項)だ!として上告することも考えられることになります。
個人的には、地裁で扱われているような事件で単に訴額が小さいだけ、というような事件については、
簡裁はもっと裁量移送をするか、調書の記載に関する運用を柔軟にするとかして対応してくれればいいのになぁ、と思っているところです。