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Channel: 弁護士の放課後 ほな行こか~(^o^)丿
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覚醒剤事件のあれこれ

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昨日、覚醒剤自己使用罪などに問われている著名な元プロ野球選手の被告に、懲役2年6か月、執行猶予4年の有罪判決が言い渡されました。

 

覚醒剤自己使用罪は、起訴される犯罪の中では数が多く、比較的単純な事案が多いため、多くの弁護士が若いうちに弁護を経験しますし、それぞれに、さまざまなノウハウや思い出を持っています。

 

私も、司法修習生時代に、外国人男性の公判廷を傍聴したことがあります。この男性は所持していたパスポートの氏名で起訴されたのですが、覚醒剤の影響からやせ細っていて、パスポートの写真とは似ても似つかない風貌でした。法律家の卵としては、「もしパスポートの本人と違っていたら、判決の効力はどうなるのだろう?」と心配だったのですが、逮捕されて覚醒剤断ちしたことや、拘置所の食事がよかったのでしょう。公判を重ねるにつれ、みるみる太っていき、判決言い渡しのころには、写真そっくりになっていました。

 

覚醒剤の常習者は、痩せるだけでなく、幻視や幻覚を体験するようになります。おびえて自首する人もいますが、そうでなくても、挙動不審で職務質問を受け、任意同行から逮捕に至る人が多数です。任意同行された警察署では、尿の提出を求められ、応じない場合には、強制採尿すると言われます。強制採尿は、下半身を裸にされ、押さえつけられて尿道から膀胱に管を差し込まれるという屈辱的な手続です。

尿から覚醒剤の成分が検出されれば逮捕です。もっとも、採尿手続の不備によって、本人の尿と特定できず、無罪になる例もあります。

 

有罪確実な場合、弁護人としては、保釈と執行猶予判決を取ることに全力を注ぎます。初犯で罪を認め、身元引受先がある場合には、保釈が認められる可能性は高いといえますが、保釈保証金として、一般に150万円から300万円が必要です。逃亡など、保釈条件に違反しなければ戻ってくるお金ですが、それでも、工面するのは大変です。全国弁護士協同組合が保釈保証書発行事業を行っていますので、こちらに依頼することも一案です。

 

覚醒剤自己使用罪では、初犯で罪を認めている場合、執行猶予のつく可能性は高いといえます。それでも、使用量が多かったり、使用年数が長く、他人と一緒に使用したりするなど、犯情が悪質な場合には、実刑になる可能性も否定できません。今回の事件では、弁護人が「保護観察つき執行猶予判決」を求めた、と報じられていますが、弁護人から「保護観察」を求めるというのは、比較的珍しいといえます。もし、実刑判決が予想されるのであれば、弁護人は判決言渡日に、控訴状と再保釈申請書を用意して出頭します。用意せず、判決をもらってから慌てる弁護人は、かなりウデが悪いとみてよいでしょうね。

 

実刑が言い渡されると、保釈の効力は直ちに失効します。そのため、判決言い渡しと同時に、被告人の身柄が拘束されてしまいます。現実には、いかにも警察出身という体格のよい人が二人、法廷の傍聴席で待機していることが多いので、判決言い渡し前に「実刑だな」と予想がつきます。傍聴席に誰もいなければ、執行猶予の可能性大です。弁護人にとって、法廷に入るその瞬間が、一番緊張するときであったりします。

 

執行猶予判決が言い渡された場合、保釈されている被告人は、そのまま法廷を出て帰れます。ただし、保護観察処分つき執行猶予判決の場合には、法廷から別室に案内され、保護観察の説明を受けることになります。このときは、案内役の裁判所職員が待機していることが多いのですが、多くの場合、体格が明らかに違うので、「実刑ではなく保護観察つき執行猶予」と分かります。覚醒剤事件の保護観察では、定期的な保護司との面接や、尿の提供、再犯防止のための教育の受講などを求められ、守らなければ、執行猶予を取り消されることもあります。

 

私も、覚醒剤事件の弁護を多く担当しました。被告人の中には、更生しましたと感謝のご挨拶に来られた方もいましたが、「きっとまた覚醒剤に手を出すだろうなあ」と思って別れた人も少なくありません。覚醒剤事案は再犯率が高く、更生のための社会のありかたが問われています。一度覚醒剤に手を染めたからといって疎外するのではなく、見守りながら受け入れる家庭や社会の必要性を痛感します。

 


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