熊本県・大分県などで今回の震災被害に遭われた方々に衷心よりお見舞いを申し上げます。余震が続いており,身の安全,そして住居の確保などが当面の課題ですが,その後には生活の再建が問題になってくるでしょう。
弁護士は,これまでも,様々な災害の場面で,被災者の支援をしてきました。私自身も,東日本大震災の直後,近畿の弁護士を率い,宮城県の避難所を巡って法律相談を実施しました。東日本大震災の際の法律相談の実例や,災害復興に関わっている弁護士たちの議論を参考に,再建に資すると思われるいくつかの情報提供をしたいと思います。
被災者生活再建支援法による支援金
震災で,①住宅が「全壊」した世帯,②住宅が半壊,又は住宅の敷地に被害が生じ,その住宅をやむを得ず解体した世帯,③災害による危険な状態が継続し,住宅に居住不能な状態が長期間継続している世帯,④住宅が半壊し,大規模な補修を行わなければ居住することが困難な世帯(大規模半壊世帯)には,2種類の支援金が支給されます。住宅の被害の程度に応じた基礎支援金(①~③100万円,④50万円)と,再建方法に応じた加算支援金(建築・購入200万円,補修100万円,公営住宅以外の賃借50万円)です(世帯人数が1名の場合は額が4分の3になります)。申請窓口は市町村役場で,基礎支援金は震災から13か月,加算支援金は37か月以内の申請が必要です。なお,②③にあたらない「半壊」の場合は,この法律による支援金の支給は得られませんが,災害救助法による応急修理がされる場合があります。
住宅の被害認定と罹災証明書の発行
基本支援金の申請手続には,市町村が認定し発行する罹災証明書が必要です。地震により被災した住宅の程度によって市町村が,「全壊」「大規模半壊」「半壊」「半壊に至らない(一部損壊)」の4つの区分の認定をします。認定のための調査は,「損壊基準判定」(延べ床面積に占める損壊割合)と「損害基準判定」(主要な構成要素の経済的被害の割合)の2つを用いて行われます。調査は研修を受けた調査員(市町村の職員等)が行いますが,今回のような大規模な震災では時間もかかりますし,認定のバラツキが生じることもあります。罹災証明書の発行に時間がかかる場合には,先に支援金の申請を行って後に罹災証明書を追加することも考えられます。認定結果に不服があっても裁判などはできませんが,市町村役場に不服を申し立てると,再度の調査が行われます。もっとも再調査には時間がかかることもしばしばです。ご自分で罹災の状況がわかる写真をとったり,建築士などの専門家に調査依頼をしたりしておくことが有益な場合もあります。
火災保険(地震特約)
火災保険には一般的には地震による被害について保険会社の免責が盛り込まれています。したがって,地震による被害に対しては,地震特約があった場合にのみ保険金が支払われることになります。地震による建物の被害の認定は,罹災証明書による認定とは一応別に,保険会社が独自に「全損」「半損」「一部損」の査定をします。契約保険金額に対し全損で100%,半損で50%,一部損で5%が支払われます(時価との関係での上限もあります)。地震保険の請求をスムーズにするためには,建物については主要構造部(柱や外壁など)の写真を,家財道具については電化製品や家具などの壊れた写真を個々に撮っておくとよいようです。加入している火災保険会社がわからない場合は日本損害保険協会(0570-001830又は03-6838-1003。平日の日中)に電話をすれば照会に応じているとのことです。保険証券がなくなっても請求に問題はありません。
弔慰金
震災による死亡者・行方不明者の遺族(配偶者,子,父母,孫,祖父母,同居又は生計を同一にする兄弟姉妹)に対しては,災害弔慰金法に基づいて,250万円(一家の主柱の場合は500万円)の弔慰金が支給されます。重度の障害を負った被災者には125万円(一家の主柱の場合に250万円)の障害見舞金が支給されますが,これは労災や交通事故の場合の後遺障害1級に近い,非常に重い障害を負った場合に限られます。
生命保険金
死亡や傷害の場合の通常の保険金はもちろん支払われます。他方,事故や災害が原因で死亡した場合に補償が上乗せされる「災害割増特約」については,大規模な災害の場合には支払われないとの免責の特約があることがあります。ただし,阪神大震災や東日本大震災においては,いずれの保険会社も,この免責を主張せず,上乗せ分も支払ったようです。
金融機関からの預貯金の払い戻し
麻生財務大臣の指示が報道されていましたし,九州財務局も各金融機関に要請をしています。被災者については,通帳や印鑑などがなくても,一定の金額の引き出しに応じるという扱いがなされます。本人確認は必要ですが,柔軟に対応がされているようです。取り扱いは金融機関や支店で異なりますので,問い合わせをされるのがよいと思います。証券各社も,証券がない場合であってもできる限り柔軟に換金に対応するとしています。
金融機関などへの支払
住宅ローンや借入金の返済などの金融機関への支払が今回の震災によってできなくなった,今後も支払ができる見込みがないという場合,自己破産などをお考えになるかもしれません。しかし,九州財務局は,先ほど述べた要請の中で,各金融機関に対し,被災者に対しては支払の猶予などをするよう求めています。また,全銀協などは,ちょうどこの4月1日から,「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の制度を始めています。借入を完済できる見込みがなくなった場合,その債務を支払わなくてよいようにするためには,本来は破産手続をとる必要があり,そうなるとほぼすべての財産を失ってしまいます。しかし,この「ガイドライン」は,破産手続を使わず,財産の一部を手元に残したうえで,債務をなくすことができる制度です。しかも,個人信用情報にも登録されません。ローンが残った自宅が全壊したというような場合,二重ローンを負うことなく,新たにローンを組んで自宅を購入することも可能になります。始まったばかりの制度であり,未知数の面はありますが,被災者の再建に大きな役割を果たす可能性があります。ほかにも,東日本大震災の際には,色々な制度により,会社や個人について債務からの救済が図られました。焦る気持ちもあるでしょうが,急いで破産の結論を出したり,まとめて返済をしたりするよりも,少し落ち着き,できれば弁護士などに相談して,対応を考えることをお勧めします。特に,生活再建支援金などを返済資金にあてること(返済用の口座に入金しておくと引き落としになるでしょう)については,慎重に検討されるほうがよいと思います。
法テラスの利用について
今回の震災により生じた法的な紛争の解決のために,日本法律支援センター(いわゆる法テラス)の利用をお考えになる方も多いと思います。東日本大震災に関してこの制度の特例が作られましたが,それはあくまでも東日本大震災についての例外でした。現在国会で審議中の「総合法律支援法の一部を改正する法律案」は,これを大災害全般に広げるものであり,既に衆議院を通過し,参議院で審議中です。早急な成立と施行が望まれます。
私たちは少し離れた大阪の弁護士ですが,必要があれば法律相談などのために現地に赴き地元の弁護士会を助け,阪神大震災や東日本大震災の際の経験を生かして,被災者の再建のお手伝いをしたいと思っています。また,被災者の再建を助ける立法措置などのために声をあげたいとも考えています。