【法制審議会の答申に関する会長声明】
昨日(9月18日)、法制審議会は、第173回会議において、「新時代の刑事司法制度特別部会」が3年余りにわたる有識者委員、研究者委員、法曹関係者委員による審議を経て採択・公表した答申案を審議し、法務大臣への答申(以下、「本答申」という)を採択・決議した。
本答申は、裁判員裁判対象事件及び検察独自捜査事件における取調べの全過程について録画・録音を義務づける制度を導入することを、その内容の一つとしているものである。そして、本答申により、警察を含む捜査機関が一定事件の取調べの全過程の録画・録音の実施が義務付けられたことは、日本の刑事司法改革において、大きな意義を有するものであり、当会の長年にわたる可視化の実現に向けての運動の成果が結実したものであり、その点は評価できる。
しかしながら、一定の例外事由が定められた点及び対象事件が極めて限定された点については、今後の克服課題として、答申で定められた今後の見直しの際に、改善が検討されなければならない。
当会は、今後も、全事件・全過程の取調べの録画・録音の実現に向けて、制度の対象となっているか否かを問わず、全事件の録画・録音の施行状況に関する検討を続けていく所存である。そのために重要なのは、何よりも会員である弁護人が、個別の事件において、可視化に向けた弁護活動を行っていくことである。ところで、検察庁は、本年10月1日施行の依命通知によって、可視化の対象事件を大幅に拡大していく方針を打ち出している。そのことも踏まえて、弁護人が個別の事件において可視化を申し入れることは必須の弁護活動である。さらに、可視化が実施されなかった事案においても、自白の任意性の立証が不十分であるとの指摘を裁判所に対して行うことも極めて重要となる。このような弁護活動を裁判において行っていくなかで、本答申で定められた可視化対象事件に限らず、全ての取調べにおいて、供述の任意性担保の手段かつ取調べ適正化のための制度として、可視化が必要不可欠であることが、より一層明らかになってくるであろう。
他方、通信傍受については、本答申で対象犯罪が拡大されたが、拡大された対象犯罪については、組織性要件が求められている。この組織性要件が一定の歯止めとなる機能を確保するためには、組織性要件の厳格化を引き続き求めていく必要がある。もとより、当会は、通信傍受という捜査手法自体が通信の秘密を侵し、個人のプライバシーを侵害するものであることから、その安易な拡大には反対するとともに、通信傍受の制度が濫用されることのないよう、今後もその運用を監視していく所存である。
また、本答申では、被疑者国選弁護制度の拡充、証拠の一覧表の交付制度の導入、公判前整理手続の請求権の付与、類型証拠開示の対象範囲の拡大という、弁護活動をより充実させる制度として評価できるものの導入も定められており、これらの課題も個々の弁護活動のなかで活かしていかなければならない。さらに、身体拘束に関する判断の在り方についての規定の新設も、弁護活動の活性化の一助となりうる。他方、捜査・公判の協力に関する協議・合意制度の導入、刑事免責制度の導入、ビデオリンク方式による証人尋問の拡大、証人の氏名・住居の開示にかかる措置の導入、公開の法廷における証人の氏名等の秘匿措置の導入、公判廷に顕出された証拠が真正なものであることを担保するための方策、自白事件の簡易迅速な処理のための方策等については、慎重な対応が必要である。なお、協議・合意制度については全く新たなものであるため、弁護士会としても、その検討・研修を十分に行っていく必要がある。今後、同制度の運用が開始され、運用に関する一定の経験が蓄積された後に、その実情に対する正確な分析・認識に基づいて、多角的な検討が求められる。
当会は、本答申で導入されることとなった各制度が新たな人権侵害や冤罪を生み出さないために、その運用について慎重な検討を行うとともに、各制度が冤罪を防ぐために十分な機能を果たすよう、個々の弁護活動を通して、これらの各制度を適切に活用できるよう、弁護活動の一層の活性化に尽力し、さらなる制度の拡充・改善を目指して不断の努力を傾注する所存である。
2014年(平成26年)9月19日
大阪弁護士会
会長 石 田 法 子
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