相続についての相談で,「亡くなった人に負債があるかどうかが分からないのだが,仮に負債があった場合その分を相続しないで,財産のみ相続する方法はないか。」という質問を受けることがときどきあります。
人が亡くなったとき,その相続人は,相続をするかしないかを選ぶことができます。相続する旨の意思表示を承認,相続しない旨の意思表示を相続放棄と言います。そして,亡くなった人の財産から負債を引いたときに,プラスが残るなら相続するが,債務超過になるのであれば相続しない,という意思表示を限定承認と言います。
債務超過であることが明らかであれば相続放棄をすれば足ります。相続放棄は裁判所で手続を行う必要がありますが,それほど複雑な手続ではありません。
他方,限定承認は,裁判所で手続をする必要がある上,債権者らに向け,一定の期間内に請求の申出をすべき旨の官報公告をしなければならず,公告期間が過ぎた後は,債権者らに弁済をしなければなりません。また,相続財産を売却する必要がある場合は,原則として競売に付す必要があります。加えて,相続財産に土地等が含まれており,亡くなった人が取得したときよりも時価が上がっていた場合,「みなし譲渡所得」という税金がかかります。
このように,限定承認は相当の手間と費用がかかるため,これまでは債務超過かどうかはっきりしない場合でも,相続放棄の手続がとられることが多かったのではないかと思います。実際,限定承認の件数は相続放棄よりはるかに少ないのです。
しかし,それでも,今後は限定承認が増えると思います。亡くなった人と相続人が疎遠で,負債の有無がよく分からないケースが増えているからです。
悩ましい場合は,やはり一度弁護士とよく相談して,もっとも合理的な手段を検討すべきと思います。