裁判官が法廷で着ている真っ黒な「法服」。絹でできているが,通気性がよくないので夏は暑い。書記官のそれはポリエステルでできていて,余計に重く,暑い。私が司法修習生だった13年前に書記官の方から聞いた話だ。
そのころは夏に軽装で仕事をするという概念があまりなく,みんな暑いのを我慢してネクタイを締め,上着を着ていたのだが,ただでさえ風通しの悪い裁判所,ある日法廷に行ったら,あまりの暑さに書記官が,「こち亀」の両津勘吉よろしく法服ごと腕まくりして席に座っていた。法廷の権威も日本の猛暑の前には形無しである。
みんなが限界を感じていたのだろう。当時環境大臣だった小池百合子氏が「クールビズ」を打ち出したのは2005年。昭和の「省エネルック」とは打って変わってすっかり定着し,もう10年以上が経つ。
ひょっとすると小池さんは,夏がお得意なのかもしれない。10年たって真夏の首都で戦う小池さんは,夏の日差しを追い風にしたようになんだか元気だった。私もそうだが,暑さが苦手な人間にとっては,夏を味方にする人がうらやましく感じられる。
4年後の夏のホスト・ホステスを決める都知事選が,昨日投開票された。この原稿は昨日午後8時以前に出稿しているので,結果は知らない。
越後の冬を熟知していた田中角栄は,真冬の選挙も難なくこなし,ライバル候補に水をあけたという。桶狭間の信長もしかり。いつの世も,季節や天候を味方につけた者は勝利に近いようだ。2016年の東京の夏を援軍にし,戦いを制したのは,果たして誰だろうか。
4年後を見据えた8月が,今日から始まる。くしくも80年前の今日は,ナチスの宣伝に利用されたベルリンオリンピックが開幕した日でもある。戦争の惨禍と平和の尊さを胸深く刻み,4年後の夏を平和と友好の祭典として花開かせることを誓うひと月としたい。
新都知事は今月中旬にもリオに立ち,五輪旗を受け取って帰国する。これからの4年間,準備を加速する中で様々な問題も出てこよう。新たな東京のかじ取りが,ビジーな都政をクールな顔で軽やかに乗り切ってくれることを願ってやまない。