児童相談所や市町村窓口に相談を
Q.私が住んでいるアパートの隣の部屋から先日、男性の怒鳴り声と男児の泣き声が聞こえてきました。
数日後、その男児と廊下で顔を合わせたら、顔が腫れていて、誰かから暴力を受けているようです。虐待かもしれないと思うのですが、隣の人に直接尋ねるのも怖いです。どうしたらいいのでしょうか。
A.近所の子どもの様子に不審を抱いても、よその家庭のことはよく分からないものですし、その親との関係悪化を恐れて介入をためらうのも当然です。しかし、児童虐待を疑ったら、できるだけ早く児童相談所(全国共通ダイヤル0570・064・000)や市町村の窓口などに相談してください。
児童虐待防止法は、「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した」場合、相談機関に通告することを全ての国民の義務と定めています。児童虐待には暴力だけでなく、性的行為や言葉・態度による脅かし、育児の怠慢なども含まれます。
通告があると、児童相談所は子どもの安全を最優先で確認しつつ、虐待かどうかを慎重に調べ、子どもが安全に過ごせるよう必要な措置を取ります。虐待かどうかの判断に迷い、通告をためらっている間に手遅れとなるケースがあるので、疑った段階での通告を義務としているのです。2011年度には全国で約6万件の通告がありました。
調査の結果、虐待ではないと判明しても、虐待かもしれないと思って通告した人が責められることはありません。通告は匿名でも構いませんし、相談機関は通告者の情報を漏らしてはいけないと法律で定められています。
さて、児童虐待防止法が成立して10年以上がたちますが、いまだに悲惨な虐待事件が後を絶ちません。虐待は、社会的に孤立した家庭で起こりやすいことが分かっています。自分をコントロールできず、子どもを傷付けてしまうことに苦しむ親も大勢います。
「通告」という言葉はいかめしいですが、育児に苦しむ親や子どもに手を差し伸べるための相談も、通告の一つと考えてください。子どもの成長は、親のみでなく、社会全体で見守っていきましょう。
〈回答・林仁司弁護士(大阪弁護士会所属)〉
2013年10月12日 毎日新聞大阪版朝刊掲載