今回もスポーツ弁護士(スポ弁)としてスポーツ(プロ野球)に関する話題です (以下は話を分かりやすくするために詳細な説明を省いており、その点で不正確な部分があることをご了承ください。)。
現在、プロ野球では楽天の田中将大投手がメジャーに移籍できるかという 話で盛り上がっています。
そのことについて、 日米の野球関係者がポスティングの新制度について合意をしたというニュースがありました。
では、そもそもポスティングって何なのでしょう?
まーくんはなぜすんなりメジャーに行けないのでしょうか?
また、日本の球界でもストーブリーグで契約更改やフリーエージェント(FA)などのニュースがなされています。
その中で、FA権を行使した選手が元いた球団が人的補償を要求するとか、 新たに入団する球団がプロテクトをどうするとかいうことがニュースになっています。
では、人的補償ってなんでしょう?
プロテクトってなんなんでしょう?
【保留制度】
そもそも、日本のプロ野球界(NPB)においては、選手はドラフト制度を利用して入団します。
その際、選手がどこの球団に入りたいということは考慮されません。
これは,その点を考慮すると人気やお金がある球団ばかりがいい選手を獲得して 戦力の均衡が図れないことによります。
そして、選手が一度球団に入団すると,球団は選手に対する「保留権」を有することになります。
保留制度とは簡単に言えば選手の移籍を禁止する制度です。
そのため、球団が保留権を有する選手については、国内国外を問わず、選手が、 他球団に移籍するために契約交渉、練習参加等を行うことはできません。
選手が自分の意思で他球団に移籍ができないのが大原則なのです。
そして、この保留権は、球団が保留権を行使すれば、現役中はもちろんのこと、任意引退後(自由契約など球団から 保留権を放棄された場合以外)3年間は継続することとなっています。
ちなみに、「自由契約」とは球団がこの保留権を放棄したことを指し、「トレード」は球団同士が選手の保留権を交換することを指します。
【FA制度】
この保留制度の唯一の例外がFA制度なのです。
先ほど書いたとおり、NPBにおいては、選手が自分の意思で他球団に移籍することはできませんが、 選手がFA権を行使した場合に限り、選手は、移籍するための契約交渉を行うことができます。
FA権は国内球団との契約交渉ができる国内FA権とメジャーなどの海外球団との契約交渉ができる海外FA権があります。
そして,ごくおおざっぱにいうと,国内FA権は入団後8年(大卒は7年)、海外FAは9年で取得できます。
しかし、入団後9年となると,高卒でも27歳、大卒だと31歳になります。
近年は日本人でもメジャーで通用することが分かってきましたが、自分の意思で海外にいけるころに 選手としてのピークを過ぎてしまっているということにもなりかねません。
ただ、他方で力をつけてきた選手がすべて無条件でメジャーにいってしまっては 球団や日本球界としても困ってしまいます。
そこで、海外FA権取得までの期間に、球団の承諾をもって海外球団と交渉できるようにしたのが ポスティング制度なのです。
【ポスティング制度】
この制度は海外の球団が、選手ではなく日本の所属球団に入札金額を支払うことにより、球団が承諾した 場合に選手との契約交渉を認めるというものです。
ポスティングという名のとおり、海外の球団による入札を行い、最高入札額を入れた球団と交渉ができることになります。
海外の球団としては、日本の球団に対する入札金額と選手に対する契約金や年俸などが必要になり、かなりのコストを要することになります。
この点について、入札金額が高騰しすぎるということでメジャー側から不満が出た結果、現在のポスティング制度の有効期限が切れた 今年のオフに新制度についての話し合いが行われることになったのです。
その結果は皆さんもご存じだと思いますが,最高入札額に制限を設け(2000万ドル)、最高金額を入札した球団が複数いた場合には選手は そのすべての球団と交渉ができるというものです。
日本の球団にとっては高額の入札金額をとれなくなって不利な反面、選手にとっては複数球団と交渉ができるようになったので 意味がある制度といえます(以前は最高入札額を入れた球団との契約が破談になった岩隈選手などの例がありました。)。
ポスティングですので、当然日本の球団側が承諾しなければ選手は契約交渉ができないというのは新制度でも同じです。
そこで、田中将大投手についても、楽天が2000万ドルの入札金額で承諾するのかが問題となっているのです。
他方、ロッテの渡辺俊介投手は、海外FAではなくロッテを自由契約となってメジャー行きを表明しました。
これは、渡辺俊介選手の年齢(37歳)や球速がないサブマリンと呼ばれる独特のスタイルがメジャーで受け入れられるかどうか 分からず、もしメジャー球団からのオファーがない場合に日本球団に復帰しやすいようにロッテが配慮して自由契約にしたといわれています(楽天のマギー選手も同様の配慮から現在自由契約となっています。)。
【人的補償・プロテクト】
先に述べたように、選手が自分の意思で球団を選べるようになるためには、球団から自由契約にならない限り FA権を行使して移籍するしかありません。
この点、海外FA権行使の場合には特に制限はありませんが、国内FA権を行使した場合、特定の選手の場合、 移籍先球団から移籍元球団に対して、金銭あるいは金銭と選手という補償が必要になるという補償制度があります。
この補償を選手で行うことを「人的補償」といいます。
これはある程度年俸が高い選手(実力がある選手)を失った球団に対する配慮から設けられているものと考えられます。
移籍元球団は、補償について、「金銭+金銭」という金銭補償のみの要求でも可能ですが、 「金銭+選手」という金銭+人的補償を行うこともできます。
ただ、人的補償といっても移籍先のどの選手でも獲得できるという訳ではなく、 移籍先が支配下登録をしている選手のうち「プロテクト」をした選手などについては獲得できません。 この「プロテクト」は支配下登録している約70名の選手のうち28名まで可能となっています。
ですので、当然、一軍でレギュラーになるような選手などはプロテクトされますので、 従前はあまりこの人的補償は利用されていませんでした。
しかし、近時は、プロテクトから外れた若手で将来有望と思われた選手を人的補償により 獲得して育成していこうという傾向にあり、人的補償が要求される場合が多くなってきました。
最近ニュースになっているのは、この「プロテクト」の28人を誰にするのか、移籍先球団が 悩んでいるというようなニュースだったり、移籍元球団がプロテクトを外れる選手を予想して誰にしようか 考えているというようなニュースなのです。
そのほかにも、選手の契約や移籍制度などについてはいろいろな制限があり、ややこしいですが、 このようなことが少し分かればスポーツニュースがもっとおもしろくなるのではないでしょうか。
野球と異なり、サッカーでは、ヨーロッパでの有名な判決により現在は移籍が随分自由になっていますがこの点はこのブログが好評であればまた書きたいと思います。
スポーツ弁護士は、上記のような契約や制度を使って選手や球団のサポートをしたり、 制度の問題点などを研究して指摘したりする仕事をしています。
日本のプロ野球界では選手契約の代理人になる弁護士数はまだまだ少なく、 球団や選手会に関わる弁護士も限られていますが、これからはより活動の幅が広がっていくのではないかと 勝手に考えていろいろな活動をしています。