権利濫用となる場合には無効
Q.姉の夫は大手企業に勤務し、経理の仕事をしていたのですが、先月に「能力開発センター」という部署へ異動になりました。
事情を聞くと、机と椅子があるだけの部屋に一日中隔離され、仕事らしい仕事もないそうです。自主退職を迫る会社の嫌がらせだと思うのですが、どうすればよいのでしょうか。
A.別の部署への異動を命じる配転命令は原則、会社の自由裁量とされ、社員は従わなければいけません。
ただし、命令が権利の濫用となる場合には無効になります。今回の場合で言えば、能力開発センターへの異動を拒否し、元の部署で働くことができるのです。
裁判例によれば、①業務上の必要性がない②不当な動機や目的がある③労働者が著しい不利益を負わされる――場合などは、配転命令が権利の濫用と認められています。
話を聞く限り、能力開発センターに配転する業務上の必要性はないと思われます。
もし仮に必要性があったとしても、▽隔離や監視▽理由のない差別的扱い▽著しい賃金の減額▽執拗な退職勧奨――などがあれば、会社が不当な動機や目的で配転したと言うことができます。
会社への対抗手段としては、最初から弁護士に依頼して交渉や裁判をすることもできますが、労働組合に相談する方法があります。労組と会社との団体交渉の結果、事態を変えられる可能性があります。労組のない会社でも、一人で加盟できる地域の労組に入り、交渉することができます。
弁護士に依頼した場合には、弁護士はまず、元の部署に戻すよう文書で会社に要請します。会社が要請に応じない場合、次の手段が裁判です。配転命令が無効だと主張し、元の職場に戻すよう求める訴訟や、会社に慰謝料を求める訴訟を起こすことも可能です。
職場復帰を急ぐ場合には、仮処分を求めるという方法もあります。ご本人に労組や弁護士に相談するよう勧めてあげてください。
〈回答・七堂眞紀弁護士(大阪弁護士会所属)〉
2013年9月21日 毎日新聞大阪版朝刊掲載