1 特殊詐欺とは
特殊詐欺の件数が増え続けています。
特殊詐欺というのは,「被害者に電話をかけるなどして対面することなく欺罔し,指定した預貯金口座への振込みその他の方法により,不特定多数の者から現金等を騙し取る犯罪の総称」(警察庁HP,http://www.npa.go.jp/hakusyo/h24/honbun/html/o2130000.html)をいいます。
平成26年には認知件数・被害額ともに前年を大幅に上回り,特に,被害額は,559.4億と初めて500億円を超え,過去最悪を更新しました(警察庁捜査第二課生活安全企画課「平成26年の特殊詐欺認知・検挙状況等について」)。
2 特殊詐欺の手口
特殊詐欺の手口は巧妙です。
犯人らは,被害者の家族構成等の個人情報を掌握しており,巧みに被害者を欺きます。また,摘発を逃れるために,被害者へ電話を架ける時には,他人名義や架空名義の携帯電話(いわゆる「飛ばし携帯」)を使います。さらに,同じく摘発を逃れるために,被害者から現金等を騙し取る時には,振込みではなく,手渡し又はレターパック等の郵便によって現金を送らせます。そして,これが最も重要ですが,被害者に電話を架ける人間(いわゆる「架け子」)や,現金等を手渡しで受け取る人間(いわゆる「受け子」)は,犯人らの上層部とは直接の連絡がないため,架け子や受け子が摘発されても上層部には摘発が及びません。つまり,上層部は,架け子や受け子を使い捨てて,次々と犯行を繰り返すことができるのです。
そのため,特殊詐欺の件数は減らず,その結果が冒頭の認知件数と被害額です。
3 架け子・受け子の運命
私が特殊詐欺と関わるのは,おもに,この使い捨てられた架け子・受け子の国選弁護人としてです。
架け子・受け子の運命は過酷です。架け子・受け子は,被害弁償ができなければ,前科前歴がなくても実刑判決を受ける可能性が十分にあります。架け子・受け子は,犯人らから受けたわずかな報酬と引き換えに使い捨てられ,刑務所へ送られていきます。
4 特殊詐欺と貧困
過酷な運命が待ち受けているにも関わらず架け子・受け子になる人間には,貧困のために他に選択肢がない,選択肢があってもそれを選び取ることができないほど精神的に追い込まれてしまっている人が少なくありません。反対に,特殊詐欺の被害者になる人間の多くは,裕福とまでは言えないにせよ一定の資産を有する高齢者です。
おそらく特殊詐欺は,貧困層(架け子・受け子側)と裕福な高齢者層(被害者側)という社会的な構造がなくならない限り,根絶できないと思います。裏から言えば,貧困問題の解決が特殊詐欺さらには犯罪全般に対する最も有効な手段でしょうが,それは容易ではありません。
利益にならない貧困問題に誰が取り組むのか,それが最も困難な問題です。
最後までご覧いただきありがとうございました。
今年から記事を担当いたします,中尾太郎と申します。文章を書くのはお世辞にも得意とは言えませんが,物は試しと担当に応募しました。
1年間お付き合いいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。