休眠預金という言葉をご存知でしょうか?
これは、金融機関に預金として預け入れたまま、長期間その口座へ預金者側から入出金などの取引が行われなくなり、金融機関から預金者への連絡も取れなくなった状態の預金口座のことをいいます。
このような「休眠預金」は、そのままでは銀行などの金融機関の利益になってしまいます。それでいいのか? むしろ、そのようなお金は、社会のために活用できないのか。このような疑問を、病児保育事業を通じて子供の貧困対策に取り組むNPO法人が提起し、他のNPOの関係者間で長く議論を重ねてきました。その発想の基礎には、2009年に韓国で行われたNPOのシンポジウムにおいて、韓国で「休眠口座基金」というものがあり、それを福祉支援目的で活用されているという報告にありました。その後、政府もその提案には興味を示し、東日本大震災の復興支援に使うための検討も含め話が広がってきています。
対象となる預金は、毎年500億以上と想定されていて、まさに眠る黄金預金です。これを公益的な活動をしているNPO法人などを通じて、貧困層支援、福祉事業、大規模災害復旧支援や、新産業育成などの幅広い分野に回して社会のために使おうというものです。
日本の銀行預金は、商法の消滅時効が適用され、5年間権利行使がなかった場合には時効消滅します(信用金庫の預金は民法の規定が適用され10年です。)。ただ、実務では、銀行側は慣例として時効後の預金も払い戻しに応じています。いつから休眠口座とするかについては、金融機関によって扱いが異なっていますが、各公式サイト上で明示していないところが大半です。何分、もともとは預金者の財産ですから、そのための法整備や払い戻し要求への迅速な対応など、高いハードルがありました。
このような中、つい先日に日経新聞が報じていましたが、超党派の議員連盟によって、この「休眠預金」を公的な使い道に回せるようにするための法案の骨格がまとまり、今国会への提出をめざすところまできました。金融機関の休眠預金を預金保険機構に移し、国が指定する活用団体を通じて新産業の育成や福祉事業を手がけるNPO法人などに助成したり貸し付けたりするのが柱のようです。
海外では先行事例があります。アイルランドでは、2003年に「休眠預金基金」を設立し、貧困対策や障害者の支援などに活用しているとのことです。生命保険に関しても同様に対処されているようです。 イギリスでは、2012年に新たに創設された「ビッグソサエティキャピタル」基金というのがあり、銀行で15年以上使われていない「休眠口座」のお金を活用して、社会的企業の支援に乗り出し、日本円でおよそ500億円以上が確保される見通しとのことです。その基金は、政府から独立した機関で運用され、一般より低い金利で社会的企業を支援する団体に融資するなどし、それによって公共的な活動が活発になることが期待されています。
この休眠預金活用案について、「国が国民のお金に手をつけるのはおかしい」といった批判があります。しかし、この案は、休眠預金を没収するものではなく、休眠預金になっても、預金者からの返還請求があればいつでも返すことを前提にしており、そういった預金者の権利を保護しながら、永久に活用されないまま銀行の資金になっていってしまう資金を、社会貢献のために有効に活用しようという話です。決して悪い話ではなく、有効な社会資源として活用が図られるべきだと思っています。新しい発想で行う民間活力を用いた社会的課題解決への新機軸として、弁護士会などもこれに注目して、有効に機能するように育てていきたいものです。