前回のブログの記事で宣伝させて頂きましたが、
平成27年2月7日、シンポジウム「いじめ新法で何が変わるか ~増える「いじめ」相談に弁護士としてどう対応する?」が大阪弁護士会で開かれましたので、今回は、その報告をします。
やや報告は遅くなりましたが、発表者かつ事務局も務めさせて頂きました。
(やや長くなります。)
今回のシンポジウムは、主に弁護士を対象とし、新たに制定された「いじめ防止対策推進法」(以下、「いじめ新法」と略します。)の基本を学び、学校現場のことや判例などの基礎知識を知ってもらうことで、今後、いじめ問題に対応できるようにスキルアップすることを目的としたものでした。
広く一般の方にも参加を頂いた結果、教育関係の方も含め、合計240名の方が来られました。
シンポの内容ですが、第1部として基調報告を行いました。
まず奈良女子大学名誉教授で、川西市子どもの人権オンブズパーソンを務めておられる浜田寿美男先生から、「子どものなかのいじめと人権」と題して講義をして頂きました。
浜田先生は、最近の子どもたちを取り巻くいじめの状況を、オンブズマンとしての経験も踏まえ、非常に分かりやすい語り口でお話されました。
改めていじめ問題が持つ根の深さも知ることができ、わずか30分でしたが、密度の濃い時間となりました。
その後、私から、いじめ新法に関する論点の説明を行わせて頂きました。
いじめ新法の条文は多くなく、実際にいじめ問題への対応にあたって、知っておくべき条文は限られています。
しかし、知っておくべき条文には考えるべき点が多く含まれていることが、検討の結果、分かりました。
子どもの権利委員会の中で、学校部会に所属する委員を中心に「いじめ問題研究会」を結成し、約1年余りにわたり、論点の研究を行ってきましたが、
今回、その成果として40頁にわたる解釈私論を発表することができました。
駆け足の発表となったことは残念ですが、
専門家によるいじめ新法の解釈として、現時点では他に例を見ないものと思います。
なお、研究会の開催及び解釈私論の作成にあたって、瀬戸則夫弁護士に尽力を賜りました。
引き続き、佐々木委員から、最近のいじめに関する判例を、論点ごとにまとめた報告が行われました。
こちらもコンパクトに裁判所の判断がまとめられ、弁護士が中心となって開催するシンポにふさわしい内容であったと思います。
基調報告の最後として、委員の有志が、大阪市及び大阪府の教育委員会、さらに中学校、高校の学校現場を訪問し、いじめ新法に対する学校現場の対応について聴取し、まとめた内容を報告しました。
学校ごとに特色ある対応が報告されるとともに、実際にいじめ問題が発生した場合に、学校がどのような対応を取られるかについての理解も進みました。
第2部として、メインとなるパネルディスカッションが実施されました。
パネリストとして、基調講演を行って頂いた浜田先生、教育委員会の立場から宮瀧先生、現場の教師の立場から松下先生、被害者側から相談を受ける立場として、子どもの権利委員会から西村委員が参加しました。
コーディネーターは、同じく当委員会学校部会担当の副委員長である渡邊徹委員が務めました。
まず、実際にいじめがあった場合に、いじめの事実をどのようにして調査・判断するのかについて、各立場から発言がありました。
弁護士が介入する意味として、いきなり賠償問題を取り上げるのでは必ずしもなく、
環境調整としての意味があることや、
現場でも法律が制定されたことで問い合わせが増え、教師の意識が変わってきていることが報告されました。
続いて、いじめの事実を確認するための調査に一定の時間がかかることが取り上げられました。
最近では、ネットやSNSなどを利用したいじめ事案も増え、従来とは異なった形となっており、その把握も難しくなっています。
一方で、いじめ新法では「速やか」な対応が求められることから、学校・教育委員会としても、法律を意識した適切な対応をして頂く必要があると考えられます。
被害者側と加害者側との情報共有の問題については、弁護士の考えと教育現場の考えとで意見が大きく分かれました。
被害者側の弁護士としては、加害者の情報を入手することが困難な場合が多く、困られた経験をお持ちの弁護士もおられると思います。
一方、学校現場としては、争いが起こらないようにとの配慮から連絡先の交換や直接の交渉については、やや消極な意見が出されました。
被害者側から相談を受ける弁護士としては、いじめ新法を上手に解釈して利用することも検討すべきと思われます。
また、加害生徒への指導助言について明文が設けられましたが、加害者に対する関わり方としては大きな変更はないというのが学校現場の認識のようです。
ただ、いじめ新法の制定により、学校がチームとして対応することや専門家が関わっていくことについては、以前より意識されやすくなっているように思われます。
さらに加害者への別室指導等について、被害者側に請求権があるかはともかく、いじめ新法の制定により、法的根拠をもって対応が可能になりました。
が、必ずしもそれにとらわれず、教育として加害者に対して必要な指導を行っていく姿勢が示されていたと思います。
最後に、いじめ新法に規定する重大事態について、基本方針では30日以上の不登校を目安としていることで、非常に範囲が広くなっていることもあり、学校現場としても、その対応に苦慮されているという印象を受けました。
あっという間の3時間30分でしたが、非常に充実した内容になったものと自負しております。参加頂いた出席者の方、パネリストとして参加頂いた先生方には、心より感謝申し上げます。