大阪弁護士会広報室の小島です。
6月17日、「特定複合観光施設区域の整備に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明を発表しました。
「特定複合観光施設区域の整備に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明
1 国際観光産業振興議員連盟(通称「IR議連」)に属する国会議員によって、「特定複合観光施設区域の整備に関する法律案」(以下「本法案」という。)が今国会に提出されている。
本法案は、カジノ施設を含む特定複合観光施設が、観光及び地域経済の発展に寄与すると共に財政の改善に資するとして、かかる施設の推進を積極的に総合 的かつ集中的に進めることを目的とするものであり、現在、刑法上の賭博罪に該当する行為として違法とされているカジノを合法化するととともに、カジノ施設 を含む特定複合観光施設の設置を推進することを政府の責務とすることを内容とする。
しかし、現在違法とされている賭博であるカジノを合法化するような正当な理由はなく、本法案を容認することは到底できない。
2 そもそも、カジノ施設が設置されれば、①暴力団員その他不適当な者のカジノ施設に対する関与、②犯罪の発生、③風俗環境の悪化、④青少年の健全育成へ の悪影響、⑤入場者がカジノ施設を利用したことにより受ける悪影響等の様々な弊害発生が予見されるところである(本法案10条)。しかるに、本法案はこれ らの弊害を予見しながら、その防止及び排除の具体策を何ら検討もしていない。かかる状況の中、カジノを解禁するという結論のみを進めることは、賭博につい て刑事罰をもってまで禁止してきた趣旨に反するものであって、極めて無責任な立法であると言わざるを得ない。
実際、厚生労働省が2009年(平成21年)に発表した報告書によれば、我が国におけるギャンブル依存症の推定有病率は、男性で9.6%、女性 1.6%と極めて高く、潜在的なものを含めると多くのギャンブル依存症の患者が存在することが示されている。しかし、治療施設や相談機関の設置、社会的認 知への取組みなど、ギャンブル依存症に対する予防や治療体制が不十分な状況であるにも拘わらず、カジノを解禁して依存症になる国民を増やすような施策に、 賭博罪の違法性を阻却するような正当化事由は存在しない。
3 さらに、社会問題となった多重債務問題の要因の一つとして、ギャンブルがあげられる。総量規制や金利規制を定めた貸金業法改正やこれに伴う多重債務者 改善プログラムなどの対策の結果、多重債務者数も大幅に減少し、改善されてきたところである。しかし、カジノが解禁されれば、多重債務問題の再燃も大いに 危惧されるところである。
4 また、カジノ解禁による経済効果が喧伝されているが、客観的な検証はされていない。むしろ、カジノでの出費により多重債務に陥ったり、老後の資金等と しての貯蓄が奪われることなどによる新たな経済的弱者や、増加するギャンブル依存症患者に対する対策等に要する社会的コストの発生も容易に予想されるとこ ろである。かかるカジノ解禁に伴う社会的コストをも考慮すると、これを上回る経済的効果が実際に存在するのか甚だ疑問である。
そもそも、たとえカジノ解禁による何らかの経済効果が認められようとも、暴力団員らの関与、犯罪の発生、風俗の悪化、青少年への悪影響、ギャンブル依 存症患者の増加、多重債務問題の再燃などの様々な弊害を招来する危険に鑑みれば、そのような経済効果を追い求めるべきものとは到底考えられない。
5 以上のとおり、刑法により禁止された賭博であるカジノを解禁し、推進する本法案について、当会は、ここに強く反対の立場を表明すると共に、本法案の速やかな廃案を求める。
2014年(平成26年)6月17日
大阪弁護士会
会長 石 田 法 子